鶏卵を加えた焙焼菓子特有の甘いスポンジケーキ香発生に対する, 鶏卵中のタンパク質構成アミノ酸の役割を検討するため, 全卵よりも甘い匂いの強かった卵黄の場合に着貝し, 卵黄タンパク質構成アミノ酸のおもなものとして, グルタミン酸, リジン, アルギニンを選び焙焼テストを行った.その結果, 3種のアミノ酸はグルコースとEPCを加えて加熱するとスポンジケーキ香を発生した.リジンではグルコースとETGを加えて加熱してもスポンジケーキ香を発生し, この場合は水の存在によってもスポンジケーキが消失しなかった.比較のため, ロイシンを用いて焙焼テストを行ってみたが, ETG, EPCによってもスポンジケーキ香は生成しなかった. 焙焼テストから生じたヘッドスペースベーパー中の香気成分をGLCにより分析すると, スポンジケーキ香を有する場合には, スポンジケーキ香成分であるフラネオールが認められた.グルタミソ酸を用いた焙焼テストの香気成分として8種の炭化水素が新たに認められた.これらの炭化水素は薬くささや油臭を付与すると考えられる.54種の焙焼テストのヘッドスペースベーパーから, 新たな38種を含む68種の化合物を同定した. 以上の結果から, 甘いスポンジケーキ香発生には, リジン, アルギニン, グルタミン酸の順に効果があり, ロイシンはほとんど効果がないと考えられる.