1) 米糠5 : 食塩1 : 水6からなる糠味噌床を調製し, 好気的および機嫌的攪拌条件を設定して春季および秋季に保存・熟成させた.保存期間中, 経時的に糠味噌床を採取して脂質分析を行った. 2) 比較的室温の高い春季にはいずれの床の総脂質量も10日目以降増加する傾向をみせたが, とくに好気的条件の床では保存3週間で約1.5倍になった. 3) 総脂質量が増加傾向を示すのに対してグリセリド量は減少傾向をみせて, 最も減少した場合には調製時の約二分の一にまで低下した.逆に遊離脂肪酸量は増加したが, グリセリド量減少に必ずしも並行しなかった。 4) 米糠の主要脂肪酸はパルミチン酸, オレイン酸, リノール酸であり, 糠味噌床保存中にとくにリノール酸とアラキジン酸が増減した。さらに, リン脂質や遊離脂肪酸画分のこれら脂肪酸が, おもに変動することがわかった。 5) 糠味噌床保存中にキュウリを一夜漬けた結果, 2~3週間目の床に漬けた場合は, 生に比べて総脂質量が増加するが, これはキュウリ自身の脂質量がきわめて少ないので糠味噌床中に遊離した脂質の付着による影響であろうと考えられる。 6) 糠味噌床脂質のPOVは調製時からすでに高く, 保存に伴って緩やかに増加したのち減少した。 7) 以上の結果から, 糠味噌床の脂質成分は保存・熟成期間中に速やかに変動し, 熟成の進んだ糠味噌床の脂質成分が野菜材料にかなり移行することがはじめて実験的に明らかとなった.さらには長期の糠味噌床保存による酸化変敗に伴う未同定の脂質成分の生成が認められた。これらの新たな生成物についての解明とともに糠味噌床脂質成分と微生物動態との関連性について明らかにすることが今後に残された課題である。