鶏卵を用いた焙焼菓子の香りがよいことから, 鶏卵の中の, 香り向上作用を示す成分を検討した.卵黄, 卵白に分けると卵黄に, より効果的作用が存在し, 卵黄を溶媒抽出法によって7画分に分けると, タンパク質画分とリン脂質画分に作用が認められた.リン脂質画分と単純脂質画分をカラムクロマトグラフィーにより分画し, 薄層クロマトグラフィーにより成分を検討した.得られた画分のうちの5種とアルギニンを用いてグルコースとの焙焼テスト14種を行い, ヘッドスペースベーパーをガスクロマトグラフィーにより比較し, そのうちの3種について香気濃縮物を調製し, GC-MS分析を行いフラン化合物10種を含む28種の化合物を同定した.菓子香らしさを発現する成分として, フラネオール, シクロテン, 2, 5-ジメチルピラジンの存在が認められた.これら好ましい菓子香の生成には, アミノ酸やタンパク質などの窒素化合物, およびリン脂質など複合脂質の共存が有効であり, この場合単純脂質はその反応を促進することが示された.