セルロースの摂取に伴う消化管内容物の粘度上昇が, 消化管の形態と機能に与える影響についてラットを用いた動物実験により検討した. (1) セルロースの摂取により小腸と盲腸内容物の粘度が上昇した. 小腸内容物の粘度は飼料へのセルロース添加量に伴って対照群, 11%セルロース群, 13%セルロース群の順に増加したのに対し, 盲腸内容物の粘度は, 11%セルロース群, 13%セルロース群ともに対照群に比べて顕著に増加した. 小腸と結腸においてはセルロースの摂取に伴い内容物の嵩の増加が認められた. (2) 盲腸組織重量はセルロースの摂取によって増加し, 内容物の粘度との相関係数は0.67であり, 内容物重量すなわち嵩との相関係数の0.21に比べて高かった. セルロースの摂取に伴う盲腸組織の形態変化は, 内容物の嵩の増加よりも粘度上昇がより大きな要因となっている可能性が示された. 小腸においては内容物の粘度上昇ならびに嵩の増加が認められたが, 組織重量には有意な変化が認められなかった. (3) 飼料効率ならびに糖質, タンパク質, 脂質のみかけの消化率は, いずれの栄養素にもセルロース摂取の影響は認められなかった. 小腸内容物はセルロースの摂取により粘度上昇ならびに嵩の増加が認められたが, これらの内容物の物理的性状の変化は小腸内で起こる栄養素の消化吸収には影響しなかった. (4) 盲腸内容物中の酢酸, プロピオン酸, 酪酸濃度はセルロースの摂取によって低下し, 腸内発酵が抑制されていることが示された. 盲腸内容物の粘度と各有機酸濃度には負の相関が認められ, セルロースは盲腸内容物の粘度を上昇させることにより盲腸内発酵を抑制することが示された. 以上の結果より, 不溶性食物繊維の摂取に伴う消化管内容物の粘性上昇が, 消化管組織の形態変化や腸内発酵抑制といった生理機能の重要な要因となっていることが示唆された.