本研究では,曖昧な判断の性質を明らかにするために,社会的事象の判断課題と知覚判断課題の心理実験を行った.被験者は252人を概ね同じぐらいの3グループにランダムに割り当てた.3グループはそれぞれ,第1グループが正確に推定するように教示した正確教示条件,第2グループが「だいたいで」推定するように教示した曖昧教示条件,そして第3グループがファジィ評定法により推定するように教示したファジィ教示条件のもとで回答が得られた.その結果,5項目ある知覚判断課題中2項目(面積推定と縦線の長さ推定)において有意差が見られ,正確教示条件の方が曖昧教示条件よりも推定値は正確であるものの,残りの知覚判断課題3項目で正確教示条件と曖昧教示条件間で有意差は見られなかった.また,3項目ある社会的判断課題のひとつ(年間自殺者数推定)において有意差が見られ,正確教示条件よりも曖昧教示条件で得られた推定値の方が正確であるという逆の結果が得られた.しかし,他の社会的判断課題2項目(年間結婚件数と富士山の高さ)において,正確教示条件と曖昧教示条件間で有意差は見られなかった.本研究で得られた知見は,ある条件においては,曖昧な判断が必ずしも劣っているとはいえず,適応的であることを示唆するものである.