本研究では,エージェントを相手にした時のインタラクション方略に人相手のときとの異同があることを示し,人間の行動モデルをベースにヒューマンエージェントを実装するとき,考慮すべき人間のインタラクション方略のあることを提案する.ここでは,パソコン操作課題における人と人,人とエージェントの対話を素材として,どのように言語・非言語行為がインタラクションの中で配置されるのかを分析することで,エージェントに対したときに選択される方略を明らかにする.まず,人対人と人対エージェント対話の基礎的特徴を観察し,人対エージェントの対話では人の発話量が少なく,相づちや応答が稀にしか差し挟まれないことを示す.次に,非言語行為を含めた人対人の行為の配置規則を定式化し,人対エージェントのインタラクションにおいてこの規則がどのように破られるかを示す.そして,この違反が,相づちや応答の変わりに,相手発話への理解を示すためになされた補償的行為であることを明らかにする.