目的: 1975 年に制定された日本産業衛生学会の全身振動に関する現行許容基準の改訂の必要性ならびに改訂案の検討に資することのできる全身振動の健康影響を明らかにすることを目的とした. 対象と方法: 全身振動に関する現行許容基準については主に以前に行われたレビュー結果に基づき検討した.全身振動曝露と背腰部症状の関連に関する研究のレビュー論文とそれらのレビュー論文で抽出された英文原著論文ならびに著者がMEDLINEで抽出した2002–2010年の全身振動と背腰部症状の量反応関係に関する英文および邦文の原著論文を対象とし,知見について吟味した. 結果: 全身振動に関する現行許容基準の改訂は可及的速やかに行うべき状況にある.全身振動と健康影響に関する研究では,背腰部症状との関連を示す疫学研究が圧倒的に多い.全身振動の職業的曝露の有無と背腰部症状の有無の関連を示す疫学研究は28文献30研究である.全身振動,背腰部症状とも様々な指標により,全身振動の曝露と背腰部症状の量反応関係が示されている.全身振動の曝露量として Asum(8) ( x, y, z 軸の合成振動値の8時間周波数補正加速度実効値)を指標にして背腰部症状の量反応関係を検討している文献はわずかであるが,いずれも量・反応関係を示しているといえる. 考察: 全身振動の曝露の有無と背腰部症状の有無が関連していることは明らかである.最近のレビューでは全身振動0.5 m/s2を背腰部症状リスクの閾値として検討されているが,その根拠は薄弱である. Asum(8) に着目すると,0.30 m/s2を超えると背腰部症状のリスクが増大することが示唆されているので,0.30 m/s2 前後に着目したさらなる疫学研究等が待たれる. 結論: 全身振動に職業的に曝露される場合の健康影響についての疫学研究は非曝露の場合に比べて,背腰部症状のリスクを増大させることを明らかにしており,背腰部症状のリスクを指標にして許容基準を検討できるといえる.全身振動と背腰部症状の関連については Asum(8) を全身振動の許容値の指標として勘案できる知見があるといえる.