肯定的・否定的感情が睡眠の質に及ぼす影響:3年間の追跡調査より:佐伯 謡ほか.金沢大学大学院医学系研究科保健学専攻 ―本研究は感情バランス尺度(Affect Balance Scale)を使用し,肯定的・否定的感情が睡眠の質に及ぼす影響について3年間の追跡調査により明らかにすることを目的とした.富山県のT市市役所職員を対象に,2001年(ベースライン)および追跡調査を3年後の2004年に行った.調査は自記式質問票により実施し,回答が得られたもののうち,データをリンケージ後有効回答者827人(46.7%)を分析の対象とした.分析はロジスティック回帰分析を用い,感情バランススコアを中央値で高い,低いに二分し,ベースラインと3年後の感情バランススコアの変化のパターン別に,3年後の睡眠の質に対するオッズ比を算出した.その結果,ベースラインも3年後も肯定的感情であったものは,2回の調査とも否定的感情であったものより,ベースラインの睡眠の質,年齢,性別,職種,職業性ストレス,運動頻度を調整要因として投入しても,3年後の睡眠の質に対するオッズ比が3.13(95%信頼区間:1.78-5.53)と良かった.また,感情が否定的から肯定的になると3年後の睡眠の質に対するオッズ比も1.81(95%信頼区間:1.02-3.20)と2回の調査とも否定的であったものより良くなっていた.公務員を対象とした本研究により,肯定的・否定的感情が睡眠の質に影響を及ぼしている可能性が高いことが明らかとなった.また,感情バランススコアが高くなると睡眠の質も良くなることが示され,感情は睡眠の質に影響を与える一つの重要な因子であることが示唆された. (産衛誌2008; 50: 219-225)