石綿の近隣曝露と中皮腫罹患リスク:熊谷信二ほか.大阪府立公衆衛生研究所生活衛生課―石綿曝露には職業性曝露と非職業性曝露があり,さらに後者は傍職業性曝露,近隣曝露,真の環境曝露に分類される.したがって,近隣曝露の影響を明らかにするためには,他の曝露の影響を除外する必要がある.本論文では,近隣曝露と中皮腫罹患の関連性を検討した疫学調査をレビューした.南アフリカのクロシドライト鉱山およびカナダのクリソタイル鉱山の研究では職業性曝露を除外していない.オーストラリアのクロシドライト鉱山および米国の石綿製品製造工場の研究では非職業性曝露による中皮腫罹患リスクを評価できていると考えられるが,家族曝露と近隣曝露を分類していない.イタリアの石綿セメント工場の研究では,職業性曝露および家族曝露を除外した上で,周辺住民の中皮腫罹患率を算出しているので,近隣曝露のリスクを評価できている.イタリア,南アフリカ,欧州3カ国および英国で行われた症例対照研究では,職業性曝露,家族曝露および近隣曝露を区分して評価している.全体として見ると,クロシドライト鉱山およびアモサイト鉱山の周辺地区での近隣曝露による相対リスクは10~30であり,大規模な石綿工場の周辺地区での近隣曝露の相対リスクは5~20程度であった.一方,クリソタイル鉱山および石綿関連施設の近隣曝露では統計的に有意な結果がでない場合もあった. (産衛誌2007; 49: 77-88)