この研究の目的は,加齢が数種の認知機能検査成績とWAI(Work Ability Index)で評価された労働能力に及ぼす影響と,認知機能検査の成績およびWAIで評価された労働能力の関連性について検討することである.対象は某製鋼工場の男性従業員139名である(平均年齢48.1±16.4歳).対象者にWAIと認知機能検査を施行し,WAIにおいては134名,認知機能検査に関しては88名から有効な結果を得た.対象者を45歳未満の若年群と45歳以上の中高年齢群に分けて,両群間でWAIの成績を比較したが,WAI得点は両群間で有意の差が認められなかった.しかし,WAIを構成する項目のうちWAI-2とWAI-7においては中高年齢群が若年群に比べて有意に高かった.反して,WAI-3は若年群に比べて中高年齢群が有意に低かった.両群間で認知機能検査の成績についても比較した.その結果,作動記憶,トラッキング,文書比較の各検査成績は中高年齢群が若年者より低下していた.さらに,中高年齢群の対象者において,認知機能検査が良好な者と悪い者の間でWAI-3の平均値を比較したが,いずれにおいても有意の差を認めなかった.この結果より,本研究対象者において身体機能の加齢による低下と認知機能の加齢による低下とは一致しないことが示された.その理由としては対象者が肉体労働者であり,認知機能の重要度が低いためと考えられる.