経済において貨幣は極めて重要な存在である.その発生要因は経済学における重要な課題として古くから議論されてきたが,その内容は抽象的なものに留まっている.本研究では,物々交換の中からある財が貨幣としての性質を獲得するという現象を説明する新たなモデルに基づいたマルチエージェントシミュレーションの結果を用いて,複雑な社会ネットワーク中での貨幣の創発について考察する.ここで用いるモデルは,ミクロな個々のエージェント内部における財同士の交換可能性についての認識ネットワークと,エージェント間の繋がりを反映する社会的ネットワークという2重の構造をもつ.ある財が貨幣的性質をマクロレベルで獲得する様子はネットワークの自己組織化現象として表現されるが,本論文ではこれについて,エージェントベースシミュレーションにより複雑な社会ネットワークでの議論に適用可能であることを示す.