カドミウム(Cd)取り扱い作業者およびCd汚染地区住民を対象にして, Cd曝露の臨界臓器である腎臓への影響が低分子量蛋白の排泄量増加を中心に研究されてきた.最近10年間では,尿中N-acetyl-β-D-glucosaminidase (NAG)やβ2-microglobulin (BMG)などのいくつかの尿蛋白が, Cdの腎臓への影響を知る早期の感度のよい指標として提案されている.これまでの研究におけるCd曝露者の尿中Cd平均値は10μg/g・creatinineを越える例が多かったが,現在の日本や欧米諸国では,職域でもこのCd曝露レベルはまれであり,低い曝露量での影響指標が求められている.因果関係における関連の一致性という視点から,尿中CdとNAGの関連は確かなものである. NAGは, pH変化に対する安定性,測定の簡便さ,低コスト,および測定の信頼性という点で優れている.尿中NAGは10μg/g・creatinine未満のCd値における微少な腎影響を検出するためにも推奨できる指標の一つである.