Selyeによってストレス学説が唱えられて以来,さまざまな角度からストレス研究が行われてきた.ストレスは,身体疾患および精神疾患の重要な危険因子であるとともに,免疫能などの生体の防御力にも深く関連し,さらに転勤率などの社会行動面にも影響を及ぼす.衛生学,公衆衛生学の分野でも,近年ストレスは重要課題となっており,特に職域を中心としてさまざまな調査が実施されてきた.本論文では,従来行われてきたストレス評価法を,国内外の文献を整理し,ストレッサー評価とストレス反応評価に分けて概説する.まず,ストレッサー評価の質問票のうち,信頼性および妥当性が検討されているものについて概説し,さらに,障害者の家族や入院患者,看護学生などの特定の集団を対象とした質問票を紹介した.次に,職場におけるストレス要因を, 1) 仕事に固有の要因, 2) 組織における役割, 3) 昇進・降格, 4) 職場の人間関係, 5) 組織の構造と風土,および6) その他,に分類して概説した.ストレス反応については, 1) ホルモンの反応, 2) 免疫学的反応, 3) その他の生理的反応, 4) 心理的反応,および5) 行動的反応に分類し,ストレスと血液生化学的指標との関係に関する研究結果やストレス反応の測定方法を紹介した.ホルモンの反応については,ストレスと血漿および尿中アドレナリン,血漿ノルアドレナリン,血漿および尿中コルチゾール,血漿ヒスタミン,サイロキシン,プロラクチンおよびテストステロンなどとの関係が調べられている.免疫学的反応については,急性および慢性のストレスとTリンパ球数, NK細胞活性, PHAやCon-Aに対するTリンパ球の反応, EBウイルスに対する抗体価, IgAやIgGなどの免疫グロブリン,補体などとの関係を調べた研究結果を紹介した.その他の生理的反応としては,冠血流量,血圧などの血行動態的指標,リンパ球のDNA修復,ヘモグロビンA1cなどとストレスとの関係に関する研究を紹介した.心理的反応に関しては,代表的な質問紙票を列挙するとともに,声の録音によりストレス,特に不安と敵意を評価する方法を紹介した.行動的反応については,その指標となるものについて簡単に触れた.最後に,われわれが行った,単一の質問によるストレスの包括的評価方法を紹介し,勤労者を対象に,その質問による自覚的ストレスと,精神健康調査票28項目版(GHQ-28)による精神的健康度,喫煙・飲酒・睡眠・運動・生活規則性などのライフスタイル,および交流分析のエゴグラムから抽出した性格要因との関係を調べ,その結果について述べた.それにより,自覚的ストレスが多いほど,精神的健康度が悪く,ライフスタイルの中では,特に多忙感,体調悪化,長時間労働,生活への不満,生活および食事の不規則,短時間睡眠を訴える者の割合が,ストレスの多い群で有意に高いことがわかった.また,性格要因の中では,完全主義と神経質の者が,ストレスを多く感じていることが明らかになった.以上のことから,人々のストレス度を把握し,メンタルヘルスの保持・増進を図るためには,血液生化学的検査値などの客観的な指標を目安にすることに加えて,本人の主観をもとらえて,多元的にアプローチする必要があると思われる.