集団内コミュニケーション・ネットワークの効果性に関する研究において, 独立変数としてのネットワーク特性が従属変数としての集団効果性におよぼす影響を考えるとき, 両者がどのような心理学的メカニズムを媒介して結合されるかという点について, これまでに考察されてきた諸理論を整理し, 並列的に提示した. 従来からの諸理論はつぎの6つの観点に整理される. 1. 情報入力量 情報は集団遂行にとって有用なものであり, ネットワーク内位置により規定されるところの情報入手可能性は解決到達可能性を意味するものであり, これによって個人の遂行性, 作業満足感が規定されると考える. LeavittやShawの解釈にこの立場がみられる. 2. 自律と飽和性 他者に依存することなく自分自身でものごとを解決することができるという自律性, 自己決定性, 自由度が特に作業満足感を規定する. 一方, 各成員には情報処理能力に適正値があるとし, その適正値をこえた入出力があって飽和に達したとき遂行性に対する障害が出ずると考え, この自律と飽和の概念から集団の効果性を説明する立場. 自律性についてはLeavittまた自律と飽和はShawの基幹概念である. 3. 勢力行使性 他者への依存度が少ないという「制約からの解放」という消極面よりむしろ積極的に自分でものごとを解決し, その成果を他者に教えるということにともなう「勢力の行使」ということが作業満足感の積極的規定因であると考える立場. Mulderが提唱する立場である. 4. 適合論 ネットワーク特性と集団の他の諸特性, とくに課題特性, リーダーシップ特性, 成員の動機づけ状況などとの適合ということが効果性の起因であると考える立場. HeiseとMillerは課題適合, 狩野は課題適合, リーダーシップ適合, 動機づけ適合の考察を行っている. 5. 組織発達性 集団内における作業手順の組織化, 体制化のあり方が遂行姓を規定する要因であり, 一旦最適の作業組織が形成されればネットワーク条件の差はあまり意味をもたないと考える立場. また統合的構造は活動の初期において作業体制が十分に発達しないうちは中心者依存がもつ弱点としての脆弱性により効率は低いが, 体制が形成された後においてはその統合性により高い遂行性がもたらされると考える. GuetzkowらやMulderにみられる立場である. 6. 組織指定の明瞭性 ネットワーク特性によって集団内での作業手順の組織化への促進度, あるいは障害度に差があり, このことを通じてネットワークの効果性が規定されると考える立場. とくに手順組織化が進行する際の, ネットワーク条件による役割認知, 自己の位置認知, 構造設定の一義的指定性, 冗長度の少ないことを重要な要因と考える. GuetzkowらやLeavittもその実験の考察の一部にこの観点を用いているが, この視点の重要性を狩野が指適した.