本研究の目的は,Brown and Levinson(1987)のポライトネス理論に立脚し,要求表現の使い分けに及ぼす社会的距離,社会的地位,要求量の影響について検討することであった。本研究では,要求表現の丁寧度と間接度を区別し3要因の影響を検討するとともに,理論の重要な媒介変数であるフェイスに対する脅威度の認知を取り上げ,理論の検討を試みた。265名の大学生に対して場面想定法による実験を行った結果,3要因の認知が高まると丁寧な表現が使用されることが明らかとなったが,3要因の認知は使用される要求表現の間接度には影響を及ぼさないことが示された。また,その影響過程については,Brown and Levinson(1987)の見解とは異なり,社会的距離,社会的地位の認知に関しては直接影響を及ぼす過程も存在することが示された。本研究で得られた結果は,3要因が要求表現の使い分けに影響を及ぼすというBrown and Levinson(1987)の主張の根幹を支持するものであったが,影響を及ぼす次元やその影響過程については理論の妥当性に疑問を投げかけ,再考を促すものであった。