本研究の目的は,沖縄県赤土流出問題を題材として,環境リスク管理組織への信頼が,一般住民と被害を受けてきた漁業関係者との間でどのように異なるかを検討することであった。何が信頼を導くのかという問いへの,社会心理学の長年にわたる標準的な回答は,能力認知と誠実さ認知が信頼を導くというものである。これに対して,リスク研究分野で注目されている主要価値類似性モデル(SVSモデル)は,人々が,リスク管理者に対して自分たちと同じ価値を共有していると認知することこそが信頼を導く基本要因だと主張する。われわれは両モデルが統合可能であると考えた。すなわち,当該環境問題に利害関係の強い人びとは主要価値が明確であるので,SVSモデルが予測するように,価値の類似性評価によって信頼が導かれる。一方,直接の利害関係にない人びとの信頼は代表的な信頼モデルが予測するように,能力評価や誠実さ評価によって導かれる。この統合信頼モデルを検証するために,沖縄県宜野座村をフィールドとして質問紙調査を実施し,一般住民(n=234)と漁業関係者(n=72)から回答を得た。分析の結果は仮説をおおむね支持するものであり,利害関係の強い漁業関係者の信頼は価値類似性評価と関連し,一方,一般住民の信頼は能力評価と関連することが見いだされた。最後に,今回の知見がリスク管理実務に与える示唆について考察した。