自尊心と様々な情動や行動,認知との関連性は従来,その高低を中心として議論されてきたが,その他の属性を検討することにより,より包括的にその影響を検討することができる。本研究は,自己評価が外部からの情報なしに,内発的に揺れ動く時,その変動の程度を『自己概念の力動性』と定義し,この力動性が自尊心と様々な情動や行動,認知の関連性の理解に重要な役割を果たす,と提唱する。本研究では,力動性を測定するための手続きとしてマウス・パラダイムと呼ばれる手法を用いた。大学生56名を対象とした準実験の結果,ローゼンバーグの尺度で測られた自尊心得点が,ナルシシズム傾向へと与える影響に対し,自己概念の力動性が調節変数として働くことが実証された。高い自尊心はナルシシズム傾向へと結びつくのは,自己概念の力動性が高い場合,すなわち内在的に自己評価が不安定な場合のみであった。自己概念の力動性が低い場合,すなわち自己評価が内在的に安定している場合は,高い自尊心はナルシシズム傾向に影響を及ぼさなかった。本研究の結果は,自尊心の関連性を考慮する場合に,自己概念の力動性という動的な性質を考慮することが重要であることを示している。