本研究は既存集団のもとへ他の集団(参入集団)が参入した時,既存集団成員が内集団の影響力を過小評価することを確認し,この過小評価の発生量の規定要因として内集団アイデンティティ(内集団Id)と共通内集団アイデンティティ(共通集団Id)の効果を明らかにした。実験1では,実験参加者36名から12個の3人集団を構成し,半数を既存集団に,残りを参入集団に割り当てた。集団ごとにある課題について討議・決定させた後,既存-参入集団を組み合わせた6人集団(上位集団)を構成し,再度同一課題について意思決定を求めた。その結果,既存集団は参入集団に比べて再決定時の自分達の影響力を過小評価していた。実験2では参入集団をサクラが演じ,49名の参加者を全て既存集団とし内集団Id(高・低)と共通集団Id(形成・無し)を操作した。その結果内集団Id高群で影響力の過小評価が認められた。共通集団Idの高さは過小評価の発生には影響を与えず,相手集団との対立度を低く認知させた。両実験の結果に基づき,既存集団における影響力の過小評価および対立度の認知と集団Idとの関係について考察した。