本研究では,就学前障害児の通園施設において,卒園児の親が自らの語る「物語」を通して,通園児の親を支援するという試みを行った。具体的には,かつて施設に在籍した子どもの母親のメッセージを,現在通園している親に伝えることによって通園児の親に対して心理的な支援を行い,世代を超えた親同士のネットワークを作り出すことを目指した。第1部では,この試みを行った背景として,長期にわたるフィールドワークをもとに,障害児をもつ親の抱える問題を通園開始から卒園まで時間軸に沿って詳述し,施設における支援の意義と課題を明らかにした。第2部では,やまだ(2000a)のライフストーリー論にもとづいて筆者が行った具体的な試みについて考察した。その際,物語の「内容」に着目するのではなく,語られた物語と「物語る―聴く」という相互行為が,語り手である卒園児の親と聞き手である通園児の親,および両者の関係性に対してもつ意義に焦点をあてて分析を行った。その結果,語られた物語が,語り手と聞き手の間での行き来を通して,両者にとって自らを映し出す「鏡」のような役割を果たしていること,そのように他者を通して自らの姿を見つめることが,親が障害のあるわが子をしっかりと受けとめ,自信をもって育てていくために必要なプロセスであることを見出した。さらに,通園施設におけるこうした試みを,障害児を育てる親のネットワークづくりのプロセスとして位置づけた。