本研究は,否定的対人感情の形成における「認知経路」と「情動経路」の影響力を比較し,「認知経路」において否定的対人感情の形成に影響を及ぼす責任帰属要因を示すことを目的とする。 研究1では,クラスメイトとの葛藤状況を描写した3つの仮想場面を238名の高校生に提示し,各場面における不快情動,責任帰属,相手への否定的対人感情への評定を求めた。階層的重回帰分析の結果,否定的対人感情形成における「情動経路」と「認知経路」の両経路の存在が示唆され,特に,回避場面と支配場面において「認知経路」の影響力が強いことも示された。責任帰属の影響については「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属が,「意図的―不当」と「無意図的―回避可能」への帰属よりも否定的対人感情の形成に促進的に影響を及ぼすことが示された。 研究2では,244名の高校生に,研究1で「認知経路」の影響力が強かった回避場面と支配場面を提示した。その後,「意図的―不当」「意図的―正当」「無意図的―回避可能」「無意図的―回避不能」から任意の帰属情報を提示し,否定的対人感情の評定を求めた。帰属群間での一元配置分散分析の結果,「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属情報を与えた際に,形成される否定的対人感情が低いことが確認された。 以上の結果から,「認知経路」が否定的対人感情の形成に及ぼす影響が強い場合は,否定的対人感情の形成に「意図的―不当」と「無意図的―回避可能」への帰属が促進的に,また「意図的―正当」と「無意図的―回避不能」への帰属が抑制的に作用することが示唆された。