目的 近年、日系ブラジル人移住労働者の医療へのアクセスは次第に改善されてきているが、医薬品の使用状況については不明な点が多い。本研究では、日系ブラジル人移住者が、日本またはブラジルの医薬品のどちらを選好および使用しているかについて調査し、ブラジルの薬の使用に関連する社会的要因を探索することを目的とした。 方法 2011年7月、名古屋市内ブラジル人集住地区内の一集合住宅に居住する日系ブラジル人世帯全206世帯を対象とした、自記式質問票による横断調査を行った。高血圧や発熱・疼痛などに対して、日本およびブラジルの薬のどちらを選好・使用するかを調べた。また、就労形態や教育歴などの社会的要因についても聴取し、薬の選好・使用との関連を、Fisherの正確確率検定を用いて分析した。 結果 有効回答数は、74世帯(回答率36%)であった。回答世帯の3分の2が滞在10年以上で、約9割が医療保険に加入していた。降圧剤・解熱鎮痛剤のいずれも、8割以上の世帯が日本の薬を選好していた。一方、医薬品の使用については、単独での使用および日本の薬との併用を合わせると、4割以上の日系ブラジル人世帯でブラジルの医薬品が使用されていた。有職者の方が無職者よりブラジルの薬を使用している傾向が示され、また、ブラジルの薬は日本の薬と比べて、効き目が強く、副作用も強く、価格が高いと認識されていた。 子どもがいる世帯では、子どもの発熱の際に日本の薬を選好する傾向があったが、滞在年数が短い、日本語の聞く能力が低いと感じている場合、子どもにブラジルの薬を併用する傾向がみられた。 結論 調査対象となった日系ブラジル人世帯の多くが、選好する薬を実際に使用できており、医療保険加入率が高いことを含め、日本の医薬品を入手しやすい状況であった。その一方で、約4割のブラジル人世帯がブラジルの薬を使用しており、本国の薬の使用に慣れ親しんでいることや効能に対する期待などが関連していると思われた。 ブラジルの医薬品の使用自体には問題はないが、適切な医療を受けることなく自己投薬を継続することは、ときに服用者の不利益に繋がることもある。治療を受けるために病気休暇をとりやすくするなど、日系ブラジル人移住者が医療サービスをうけられるような社会環境をつくることの重要性が示唆された。