ザンビア国は、HIV感染拡大の深刻なサハラ以南のアフリカのなかでも、特に大きな影響を受けている国の一つである。ザンビア政府は、抗レトロウイルス療法(ART)をすべての郡に拡大したが、病院レベルであり、農村部に住む多くのHIV感染者にとってARTへのアクセスや治療の継続には未だ負担が大きかった。ヘルスセンターのレベルまでARTを拡大することが望まれているが、医療従事者などの保健資源が限られた環境の中では多くの困難を伴っていた。 2006年4月に開始したJICAによる「HIVエイズケアサービス強化プロジェクト」では、ARTサービスの質の向上とアクセス改善をめざし、チョングウェ郡およびムンブワ郡においてモバイルARTサービスを導入した。モバイルARTサービスとは、単体ではARTサービスを提供できないヘルスセンターにおいて、郡病院からの人的・技術的支援のもとARTサービスを提供するものである。既存の保健システムを活用する点と、人材不足を補うためにコミュニティの巻き込みに積極的に取り組んだ点に、プロジェクトで開発したモデルの特徴がある。モバイルARTサービスの導入により、両郡でのART患者数は大幅に増加し、治療開始後6ヶ月以内の治療脱落率が減少するなど、ARTへのアクセス改善の成果が認められた。 コミュニティを有効に巻き込んだモバイルARTサービスは、医療資源が限られた農村地域においても、より住民に近い場所で治療を含むHIVケアサービスを提供することが可能であることを実証した。この経験に基づき、ザンビア国保健省は「モバイルHIVサービスガイドライン」を発行し、他の郡への導入計画を開始している。