目的 途上国における小児の肥満は、近年重要な栄養不良の一つとして問題となっている。しかしアジアの小児肥満に関しては、関連要因の解明が十分でない。急激な社会経済的変化と共に幼児肥満が増加しているベトナム国ホーチミン市では、肥満予防を目的とした栄養教育のターゲットや教育内容の決定が急務である。そこで本研究では、ホーチミン市の幼稚園就園児における肥満傾向の状況を明らかにした上で、リスク要因を探ることを目的とした。 方法 2005年3月、二段階抽出法により、市内8幼稚園に在籍する3-4歳児780名とその母親に対し、身長・体重の体格測定とベトナム語の質問票調査を実施した。児の体型はweight-for-height z-score(WHZ)を用い、National Center for Health Statistics(NCHS)の基準により2SD以上を過体重/肥満(OV/OB群)と判定した。母親はBody Mass Index 23を基準に肥満判定した。解析は家庭環境と社会経済状況、児の生活習慣および食生活、児と母親自身の体型管理に対する母親の認識の各項目と児の肥満傾向との関連性を検討した。さらに多変量解析で交絡因子を調整してリスク要因を抽出した。 結果 741名から回答を得、回答率は95.0%であった(男子377名、女子364名)。児の平均月齢は61.8±6.8ヶ月、母親の平均年齢は35.0±5.2歳であった。OV/OB群と判定された児は27.8%であった。単変量解析で有意差が認められた社会経済状況、生活習慣、食生活等の変数は多変量解析においては選択されず、性別、児の現在の体型に対する母親の認識、将来の児の体型に対する母親の希望、自身の現在の体型に対する母親の認識、の4変数が選択された。 結論 ベトナムにおいては低栄養の問題も依然大きいが、ホーチミン市では27.8%もの肥満傾向児がいることが明らかとなった。ベトナムの幼稚園就園児においても肥満問題の地域偏在の可能性が示唆され、ホーチミン市におけるリスク要因を明らかにする必要性が支持されたと考えられる。多変量解析から、母親の適切な体型認識への興味は、どのような社会経済層、生活習慣を持つ家庭においても、児の肥満傾向の抑制因子となることが考えられた。栄養教育は一般的に行われている小児肥満対策であるが、ホーチミン市栄養センターにおいては、特に栄養管理の中心を担う母親に対し、母親の体型認識に関する指導・改善が、栄養教育に必要であると示唆された。