左中大脳動脈閉塞症による小児失語例で,後に重篤な文字習得困難を呈した現在9歳女児の症例を報告する.発症は1歳4ヶ月.発症当初はほとんど緘黙状態だったが,早期に失語症状は回復した.しかし普通小学校入学後,文字習得困難をきたした.8歳1ヶ月時の WISC 知能診断検査では,動作性,言語性 IQ ともに正常域だった.なお音声言語面,視覚認知面には問題をみいだせなかった.3年間文字指導を行なってきたが,9歳になった現在もなお明らかな読字書字困難が残存した.本例では角回部周辺に到る病巣が読字書字機構の発達に影響を与え,視覚系路と聴覚系路を統合させる過程が障害されたと思われる.