左側の半側空間無視 (USN) を呈した右側視床出血を有する47才の右利きの女性の例を報告した.ルーチンの神経心理学的検査法では,USN の徴候は発症約4ヵ月で消失したが,仮性同時失認の徴候が遷延して認められた.頭部 CTscan では,出血が右側視床を中心に外側は内包にまで及び,内側は脳室内に穿破している所見が得られた。この所見は,右側視床の後内側部が USN 発現に大きな役割を演じているという最近の考え方を支持しており,また内包後脚が USN 発現に参画している可能性をも示唆している. 左側すなわち無視の存在する側への衝動性および滑動作追従運動は,病初期と回復期を通じて何等かの異常が認められた。このうち衝動性眼球運動の異常は,前頭眼野から下行する衝動運動線維系の損傷の結果生じたとも考えられる.一方,衝動性および滑動性追従運動などの視覚誘導性眼球運動は,USN による視覚入力の欠如の結果障害された可能性の方が強く示唆された.