入院中のアルツハイマー型痴呆患者4例に日常生活上の問題点に即した領域特異的な記憶訓練を実施した。訓練内容は,リハビリテーションスタッフの名前,現住所,日付,スケジュール,日課遂行の5項目である。4ヵ月の訓練後,MMS や HDS-R,Wechsler Memory Scale 改訂版やリバーミード行動記憶検査スコアでは著変はみられなかった。各記憶課題の正答率は,人名や場所の記憶は明らかに改善したが,日付,スケジュール,日課遂行の記憶は改善しなかった。今回効果のみられた人名や場所の記憶という固定的で意味記憶的要素を持った課題は積極的な記憶訓練対象になり得ると考えられた。他方,日付,スケジュール,日課遂行という時間的要因を含んだエピソード記憶的要素を持った課題は改善の可能性が低く,訓練よりも環境整備などで生活を支えていくことが望ましいと思われた。加えて,痴呆患者の記憶訓練を継続させるためには,情動面への配慮も重要であるという印象を持った。