本研究は,失語症例における語音弁別障害と周波数変化の弁別障害との関連性を検討することを目的とした。対象は,左半球損傷の失語症 9例と,健常成人 11名であった。言語音の弁別検査と非言語的な周波数変化音の弁別検査を行った。言語音の弁別検査では,検査刺激に,速いフォルマント遷移を持つ /ba/と/da/,および遅いフォルマント遷移を持つ /wa/と/ra/ を用いた。非言語音の弁別検査では,検査刺激に,/ba/,/da/ の第2フォルマント (F2) 遷移に対応する速い周波数変化を持つ純音,および /wa/,/ra/ のF2遷移に対応する遅い周波数変化を持つ純音を用いた。その結果,失語症例の言語音の弁別障害は,横側頭回の損傷による周波数変化の知覚障害に起因するとは言えないものの,言語音の中でも速いフォルマント遷移を持つ /ba/,/da/ の弁別に関しては,知覚レベルの障害の影響が大きいことが示された。