本例は脳外傷により,左手の触覚呼称障害と,左手から右手へのみの一方向性の知覚移送障害を呈し,左手の失書や失行を示さなかった。交差性移送における大脳メカニズムの考察から,本例は,両側運動連合野間の経路は保たれているが,両側感覚連合野間の経路に障害があると考えた。また,脳梁病巣部位との関連から,左手から右手への交差性移送と左手の触覚呼称では,情報は両側感覚連合野を結ぶ脳梁体部後半背側部を通過し,右手から左手への交差性移送,左手の書字の際には,情報は両側運動連合野を結ぶ脳梁体部後半前方部を通過する可能性が示された。