最近,単語の読みに関してニューラル・ネットワークが注目を浴びている。この小論では,単語の読みに関する主要なモデルのうち,先行モデルである2重経路モデルの簡単な歴史を述べたあと,単一経路 (すなわちニューラル・ネットワーク) モデルについて解説する。ニューラル・ネットワークは構造が簡単な割には情報処理能力が高く,直感からは想像しにくい振る舞いをする。また,欧米語より複雑な文字体系を持つ日本語の仮名語,漢字語の両方を読むネットワークを構築した研究によれば,そのネットワークが仮名語・漢字語を読めること,損傷を与えると部位に応じて音韻性失読や表層性失読が現れることもわかってきた。さらに,2重経路・単一経路モデルの対立点は,経路の数にではなく,「規則/辞書」対「一貫性」 (consistency) にあることを示す。この対立は,読みにとどまらず,書き取り,動詞の活用 (規則動詞vs.不規則動詞) ,さらには Chomsky の牙城,文処理にまで及んでおり,今後の展開が楽しみである。