臨床神経心理学の立場から,Farahの視覚失認論を吟味することを通して,認知心理学的アプローチの意味を検討した。 (1) 統覚型と連合型の視覚失認は,PDP (並列分散処理) の視点からは不可分離であることになるが,現実には,視覚失認の「意味型」ないし「象徴型」と考えられる症例報告があり,両型の区別はなお臨床的に意義を有すること, (2) Farahが試みている,背側型同時失認と腹側型同時失認の区別は,同時失認の異質性を明確にしたという点では評価できるけれども,本来の「Wolpert型同時失認」の意義を無視してしまっており,時間的空間的同時性とともに,「認識論的同時性」の障害にも留意すべきであること,を指摘し,今後,認知心理学と臨床神経心理学の双方にとって,臨床的事実に対する認識が真の意味で共通のものとなってゆくことが必須であり,絶えず緊密な対話を続けてゆくことが重要であることを強調した。