自験例の検討を通して,逆向健忘に関する以下の問題点に迫った。 (1) 逆向健忘は (前向健忘と) 独立して存在しうるか? 一過性全健忘例の回復過程で前向健忘のみが残存する時期があること,自験の孤立性逆向健忘2例と文献例での検討により逆向健忘と前向健忘とは独立して存在しうると考えられた。 (2) 逆向健忘は1種類か? という点に関して,自伝的記憶と社会的出来事の記憶という側面から検討を試みた。ピック病での検討から自伝的記憶障害と社会的出来事に関する逆向健忘とは独立して存在する可能性があることを指摘した。また,アルツハイマー病ではいずれの逆向健忘もみられたが,時間的勾配も両方に認められた。 (3) 逆向健忘の責任病巣について,健忘症例のみならず変性疾患の症例での検討も合わせて検討した。逆向健忘の責任病巣は側頭葉病変と関連する可能性が高いものの,なお症例の蓄積が必要と思われた。