A. D. Baddeleyによって提唱された (Baddeleyら 1974) ,ワーキングメモリー・モデルの成立と発展の過程と,臨床神経心理学との関係について論じた。Baddeleyがワーキングメモリーの3項モデル (ワーキングメモリーが,言語情報の一時的保持を行う音韻ループ,視空間情報の一時保持を行う視空間スケッチパッド,それらをコントロールする中央制御部の3つの下位システムから構成されている) を提案した契機になったのは,Warringtonら (1969) による短期記憶症候群の発見であり,当初は音韻ループと言語性短期記憶に関する研究が注目された。しかし,その後はワーキングメモリー (特に中央制御部) と,前頭葉機能の関係に関する研究が増加している。最近,脳科学における学際的な研究領域として認知神経科学が活況を呈しているが,ワーキングメモリーはそのもっとも重要なキーワードとして広く認知されつつある。