相貌失認が記載されている114例の文献例 (男性85例,女性29例) における原因疾患,視野欠損,神経心理学的随伴症状,解剖学的所見を検討し,相貌失認の性差に関して検討を加えた。この結果,脳梗塞を原因疾患として生じてくる相貌失認の頻度が男性において高い,未知相貌認知障害を随伴する症例は女性において多い,との2点が男女間で有意差のあった項目であり,更に有意差には到らなかったものの,右同名半盲と左同名半盲の差異は男性において後者が前者の6倍強であったのに対して女性では1.5倍でしかなかった。これらの結果から, Mazzuchi らが提示した相貌失認の男女差の発現機序の内,視覚連合野の脳梗塞に対する抵抗性が男女間で相違するという仮説及び女性においては相貌認知に関する半球間の機能局在がより緩やかではないかとする仮説の双方の機序が,相貌失認の性差の出現に寄与している可能性が示唆された。