1.就学前の幼児の性格検査として, 幼児が日常経験する事態を線画でかいた20枚からなるテストを製作した。幼児が日常生活で示す行動を, なるべくありのままの姿でとらえ, その行動から, かれらの性格を抽出しようとするものである。質問紙法の変型というべきテストである。 2.この報告は, テストから抽出された幼児の3つの性格側面, 独立的である度合い, 攻撃的である度合い, 心のあたたかさの度合いに対して, 幼児の性, 年令, 母親の学歴など7つの要素がどのような影響を与えているかを検討したものである。被験者は大都市の幼稚園児176名である。 3.選ばれた7つの要素は, その属性によって次の3種類に分類される。第1は幼児の持つ属性-幼児の性・年令.同胞の中での位置-, 第2は幼児が生活している家庭の持つ属性-家族形態・階層-, 第3は母親の持つ風性-母親の年令・学歴-である。この中で, 幼児の性格に最も強く影響しているのは, 第1の幼児の持つ属性であった。男女の間にも, 長子と末子の間にも性格の差がみとめられた。これは親が, 子どもが男児であるか女児であるかにより, あるいは長子であるか末子であるかにより, 子どもに期待している役割りが異なったものであることを示している。そのために, 子どもに対する育児方法がちがい, その結果性格に差が生ずると考えられる。親の役割り期待を支えているのは, かれらの育児観, 子ども観であるが, さらにその根底には男女観を含む価値体系がある。その意味で第2, 第3の属性も, 間接的に幼児の性格に影響を与えているのである。 4.7つの要素が幼児の性格になんらかの影響を与えていることを明らかにしたわけだが, その具体的な影響のしかた, 異なった性格が形成されてゆく過程, 親の期待する役割りと子どもの性格の因果関係については, さらに精密な研究を待たなければならない。7つの要素それぞれについてみても, グルーピングはかなり粗雑であるし, それぞれのグループに属する人数もまちまちで, 十分な検討がなされたとはいいがたいのである。いわば問題点を指示するための探索的な研究である。