心理生物学的な気質モデルに基づく乳児の行動のチェックリスト (IBQ-R) の日本版を作成・実施した研究1で14尺度を対象に行った因子分析の結果は原版とは異なった。乳児の行動の解釈における文化差がこの違いの原因であると考え, 研究2ではIBQ-R日本版の各項目 (乳児の行動) が日本ではどのように解釈されるかを母親に尋ねた。大きな違いとして, 米国では乳児の活動性を表すと考えられている反応を, 日本では行動を制限された時の不機嫌さと解釈していた。このような違いを説明する上で, 気質は文化を含みこんで発達していくという考え方は妥当であることが支持された。この文化を含みこんだ気質を測定するには, 文化の影響を受けるであろう行動を測定できる項目を盛り込むことが必要になってくる。一方で文化の影響をそれほど受けない気質の側面やそれが優勢な時期も示唆されているので, 各文化で等価と考えられる場面での行動を測定することも必要であろう。また研究2の結果から, 研究1で得られた因子構造の違いは, 日米の育児文化, 子ども観の違いが反映される自己制御 (self-regulation) に関する考え方の相違によると考察した。