この研究は, 中学生に工具の操作技能を指導する場面において, その指導に含まれる「何」が操作技能改善に有効に作用するかを明らかにしようとするものである。まず, 「釘抜き」の操作技能を調べる筆記テストを行い, その技能が劣っていると予測される生徒を選び出した。次に, それらの生徒を3つの群に分け, 個別の面接形式でそれぞれ異なる技能指導を行った。第1の指導方法は, 生徒に「使い方を説明した上で示範操作を観察させる」もの, 第2の指導方法は「釘抜きが『てこ』の原理に基づくことを説明した上で示範操作を観察させる」もの, 第3の指導方法は「第2の方法と同じ説明・観察を聞かせたり行わせたりした上で, さらに生徒自身に操作を行わせて『てこ』の原理を体験させる」ものである。これら3つの技能指導を, 釘抜きの操作技能の改善に有効であったかという点や, 釘抜きではない他の工具の操作技能を改善するのに有効に作用したかという点から比較検討した。その結果, 釘抜きの操作技能については, 3つの群に大きな差は見られなかった。一方, 釘抜きと同じく「てこ」でありながら, 見た目が全く異なる他の工具 (押し切り) においては, 第3の方法で指導を受けた生徒は他の指導を受けた生徒よりも大きな操作の改善が見られた。すなわち, 第3の方法では釘抜きで学習した技能が他の工具の操作に転移する様子が見られた。このことから,「てこ」の説明を聞き原理を理解することや, それを自分自身で体験し納得することが工具の操作技能を改善するのに重要であることが明らかになった。