本研究は, 作動記憶容量の違いが就学前児のテキスト理解にもたらす影響を検討した。41名の5-6歳児をリスニングスパンテストの結果から作動記憶-大/小群に分け, 文章検証課題及び推論問題を実施して彼らのテキスト理解レベルを査定した。また, 状況モデルの形態を探るために, 文章検証課題文に現れる単語を含む[ディストラクタ-a]と, そうした単語を含まない[ディストラクタ-b]とを設定した。その結果, 高次レベルの理解を査定する質問文や大局推論の遂行において容量の違いが顕著に現れた。また, 作動記憶-小群は両[ディストラクタ]を誤再認しており, 単語のみならず全体状況を含んだ状況モデルを形成していることが確認された。更に, 局所推論と大局推論とが, 大局推論と[ディストラクタ-a, b]とが, 容量と大局推論, [ディストラクタ-a, b]とが正の相関関係にあった。この結果から, 局所的統合から大局的統合へ, 大局的統合から主旨の把握及び[ディストラクタ]の識別へという活動の流れが想定された。加えて, 作動記憶容量は低次レベルのテキスト処理の決定因とはならないが, より高次レベルの処理において重要な役割を果たすと考察された。