本研究では, 先行研究において見られた前言語期の健聴児における音声とリズミカルな運動の同期現象が, 聴覚障害児においても見られるかどうかを検討した。そして, 同期現象の生起に聴覚フィードバックの欠如がどのような影響を及ぼすのかを考察した。具体的には, ろう児1名を対象に, 月齢6カ月~11カ月の6カ月間にわたりビデオを収録し, そのビデオ分析を行った。これらの分析結果を, 先行研究の健聴児4名の結果と比較したところ, ろう児においても健聴児と同様, 音声とリズミカルな運動の間に同期性が見られることが明らかとなった。また, この同期現象の各月ごとの発達的変化を見ると, ろう児においても健聴児と同様, 同期率はある一時期に高まり, その後消失するという変化が見られた, しかしそのピーク期の同期率の値は健聴児よりもかなり低いものであった。さらに, 健聴児では同期率のピーク以降に規準喃語が出現するのに対し, ろう児においてはそうした音声発達の変化が見られなかった。これらの結果から, 乳児に見られる音声とリズミカルな運動の同期現象は, 聴覚フィードバックによる強化によって, より持続, 促進されるのではないかと推測された。