本研究は, 価値観測定の方法を検討することによって, 価値観研究の進展に貢献することを目指すものである。投影法を用いた対人的価値観の測定用具を作成し, 妥当性の検討を行った。被験者は仲間関係・親子関係という 2種類の対人場面からなる4枚の刺激図版に対して, 物語を自由に想像し, 対人的状況で明らかにされる価値観を表わす18個の価値項目を, 大切にする程度に応じてQ 分類するよう要求される。測定は大学生・高校生の各男子と少年鑑別所に入所中の非行少年を対象に行われ, 次のことが明らかにされた。 1). Q技法因子分析の結果, 個人を分類するために有効な4種類の因子得点プロフィルが示された。この4つの次元に関して, 各図版と自己報告ごとに相関係数を計算したところ, 同種の図版間では異種の図版や自己報告との間での相関よりも値が一般に高く, 統計的にも有意であったことから, 同種の対人場面では同じものが測定されているという構成概念妥当性は保証された。ただし, 同一図版内での異因子間相関が高いこと, 各次元のα- 係数が低いことの問題点が指摘され, これについては今後の課題として残された。 2). 2種類の対人関係について, 大学生・高校生の図版に対する反応をQ技法因子分析の因子負荷によって比較したところ, 親子関係図版の反応に差がみられた。その差は, 大学生が高校生に比べてより抑制的で楽しさ否定的な反応をしているというものであった。仲間関係の図版及び自己報告の反応にはほとんど差がみられなかった。 3). 非行少年の図版に対する反応及び自己報告の結果を一般青年のそれらと比較したところ, 親子関係図版の反応で非行少年は成長・独立志向の相対的軽視がみられた。 4). 本研究から明らかになった青年の対人的価値観に関する一般的特徴は, やさしさを相対的に重視し, 能力を軽視する傾向である。全図版を通じてこの傾向はみられたが, 図版への反応においては自己報告に比べて能力の重視度が高まること, 親子関係図版への反応においては独立心が相対的に重視度を増すことが示された。 2) 3) 4) の結果から, 今回作成した投影法による対人的価値観の測定用具は, 対人的価値観の記述に際して自己報告より詳細な知見を提供する可能性のあることが示唆された。