従来の研究で努力帰属が必ずしも課題遂行水準の上昇をもたらさなかった一因は, 用いられた課題が主に注意集中型の努力を測定していたことにあると考えた。内田クレペリンの1桁の連続加算作業課題アナグラム課題数字と記号の置換課題といった比較的解決の容易な課題においては, 達成意欲と遂行に対する個人の課題への重要度の認知がともに高い場合, 事前テストで個人の遂行の上限に近い成績が得られ, その後のテストで遂行水準の上昇の見込みは少ないことが考えられる。これに対して方略試行の努力は, 達成意欲と重要度がともに高ければ, いかに問題を解くかという側面の向上を促進すると考えられる。 方略試行型の努力は, Brunerらの焦点法を使用することにより課題解決が可能となる概念学習課題の遂行の場合にみられ, 注意集中型の努力は, 数字と記号の置換という単純作業課題の遂行水準にみられると考えた。小学校5年生46名 (男子21名, 女子25名) について, 成功失敗条件を一定にして課題を実施し, 重要度が高く, 両課題とも努力に帰属した13名, 運に帰属した10名を対象に, 2種の課題の遂行水準を分析した。 概念学習課題の1課題を対象にして得点を与えていったところ, 努力と運の両帰属とも課題別に遂行水準の差はあらわれず, 努力要因に帰属した場合, 概念学習課題の遂行水準が上昇するという仮説は検証されなかった。そこで, 概念学習課題のブランク4試行を1組として得点を与えていったところ, 概念学習課題では努力要因に帰属すれば遂行水準が上昇し, 仮説をうらづける結果が得られた。課題間の関連性を調べたところ, 運要因では関連性がみられ, 努力要因では有意ではないが関連性のない傾向を示した。この結果は, 方略を試行するには注意の集中も必要であるためと考察した。