本研究は, 学級におけるソシオメトリック地位が中位および低位に位置する生徒に重要な役割を遂行させ, この役割行動がソシオメトリック選択, 行動特性および集団凝集性に及ぼす効果について検討することであった。 被験者は中学校2年生2学級86名である。役割行動は各学級のMi-ss, Lo-ss群に位置する生徒, 4名ずつ8名が行った。具体的な役割行動は長島らの方法に準拠し, 実験群は担任教師が学期を通して指導・助言を行うが, 統制群では行われなかった。質問紙はソシオメトリック・テストおよび適応性診断テストを用い, 調査時期は学期初旬, 中旬, 下旬の3回であった。 主な結果は次の通りである。(1)TPのソシオメトリック地位は統制群に比べて実験群において上昇する傾向にあることが認められた。(2)実験群および統制群のTPは, ソシオメトリック選択において, 地位の高い生徒を選択する傾向にあり, この傾向は役割遂行過程の経過に伴って顕著になることが示された。(3)TPに対するソシオメトリック選択は, 統制群に比べて実験群のTPが多く選択され, また, Mi-Ss群のTPがLo-ss群のTPより多く選択されることが認められた。さらに, TPを選択した生徒の地位は役割遂行過程の経過に伴って, 高地位の生徒ほど多く選択することが示された。(4) 行動特性は全体として望ましい方向への変化がみられたが, 統計的に有意な差は認められなかった。(5) 集団凝集性得点は実験群において高くなり, 統制群においては低くなることが示された。 これらの結果から, 役割行動に伴う地位と行動特性の相互形成性の仮説は, 地位に関してはLo-SS群においても認められたが, 行動特性に関しては認められなかったことが考察された。集団凝集性に関しては当初の仮定を支持するものであり, 担任教師の指導に基づく役割行動が学級集団の指導法として効果があることが老察された。 今後の課題として, 地位の低い生徒に役割を担当させる場合, その生徒の特徴と役割の性質との関連を考慮することが重要であろう。さらに, 地位の高かった生徒が相対的な地位の低下に伴って行動特性に変化が生じたかどうかについても分析すべきであろう。