実験を通じて, まず, 完全反応については保存の水準との間に関係がみられた。すなわち, 保存児は非保存児より完全反応を多くしていることが示された。この点については, Sinclairの結果と一致している。一方, ベクトル・スカラー反応については, Sinclairの結果のように, NC群でスカラー反応が, C群でベクトル反応がドミナントな反応であるということは示されず, 本実験では, どの水準についても, ほぼ, ドミナントな反応はスカラー反応であり, 操作の水準とベクトル反応獲得とに関係がないことが示された。また, 2分構造・4分構造的表現については, ベクトル・スカラー反応結果と同様に, その獲得が操作の水準と関係がないことが示された。本実験では, ほとんどの反応が2分構造的表現であった。 以上の様に, 本実験の結果は, Sinclairの結果とちがったものであり, 保存の水準と言語形態獲得に関係がないことが示された。本実験とSinclairの実験のちがいは, 1つには, 言語テストの際, 本実験ではカード提示であったのに対し, Sinclairでは具体物提示であるというちがいである。この場合, 考えられることは, 子どもにとって具体物の方が比較しやすく, それが言語反応に影響するということの検討が必要であると考えられる。また, 結果のちがいの原因として考えられるのは, フランス語における比較級と日本語における比較級のちがいである。フランス語では, 比較的形がはっきりしているのに対して, 日本語では, あまりはっきりしていない。また, relational term (本実験で用いられた, 太-細, 長-短も含まれる) は, それ自体で比較の意味を表わしているというClark, H.(1970) の主張は, フランス語でも, 日本語でもかわりはないと考えられるが, 日本語の場合には, relational termに内在している比較の意味が, フランス語とちがうため, フランス語では, どちらかと言うと明示的な比較級という形をとるのに対して, 日本語の場合には, 潜在的な比較級を用いると考えや られる。すなわち, 日本語においては, relational term に内在する比較の意味が大きな位置をしめているのかも知れない。しかし, この点に関しては, 本実験とは全く別なアプローチが必要である。 操作の水準と言語獲得との関係の問題は, もっと年齢をさかのぼり, 感覚運動のパターンとシンタックスとの対応というようなアプローチも必要であると思われる。