筆者は複雑に構成された特殊な英単語テストを用いて 昭和35年2月, および昭和36年2月の2回にわたり, 神奈川県下の公立中学校3年生の卒業直前における英語学力を調査し, その実態を分析した。 全体としてみた場合には, 学力の上昇をみたものは3校で, 明らかな一定の方向を見出すことはできない。しかし, 学校の中をさらに分割して上位群のみで2年間の比較をすると, 県下のアチーブメント・テストで評点の高いA, B, C, Dの4校に学力の上昇がみられた。また, これらの学校は進学者の多いという面でも共通した点であり, これらの学校の上位群は1つの学校を除いて, 文章の読解力も高まつたことが明らかにされた。 中位群については, 4校が学力の上昇をみ, 2校に変化がなく, 2校は下降している。学力の上昇をみた4校は進学者が多い学校である。(I校は就職者も多いが進学者も多い) 下位群では, 学力の上昇が3校, 不変が3校, 下降が2校で, 必ずしも一定の傾向はない。 卒業後の進路別に分析しなおしてみると, 学力の上昇をみたのが, 公立高校 (普通科, 職業科), 私立高校 (普通科, 職業科), 就職, 各種学校の進路をとつたものである。これらのうちで私立高校へ進学した群は学力の上昇は著しいが, 文章の読解力について学力の上昇をみたのは, 公立高校へ進学した者のみであつた。 いろいろな面から分析してみたが, 学力の上昇のしかたや中学校卒業後の進路などによるちがいはあるにしても, 試験科目の中に英語が加えられるようになつてから, 中学校卒業生の英語学力が上昇したことが明らかにされた。しかし, その学力の上昇の内容は複雑で, 3年で学習したものについては上昇が著しく, 2年で学習したものについては上昇の度合いが一番少ないというアンバランスをみせている。しかも, 3年における学習内容についての理解十分とはけつしていえるものではなく, 今後の綿密なカリキュラムにもとずく指導と評価の積み重ねとが望まれると考えられる。 以上の結論は, 次の2点を前提として導き出されたものである。第1は, ここで用いられた英単語テストが英語学力評価の指標として妥当であること, 第2は, 調査の対象となつた昭和34年度の3年生と昭和35年度の3年生は, 能力的にみて同程度の集団であることである。 第1の点については, 前述のようにこれを支持する資料があるが, ここで軍いたテストだけで英語学力全般を評価するのにけつして十分であつたとは考えていない。 第2の点については, 調査対象の生従数がかなり多いところからみて, 無理のない前提といつてよいであろう。 この調査は教育制度の変革に伴なう学力の変動を明らかにしたが, 制度的変化が学習指導や, 生従の学習態度に及ぼした影響とそれらの条件と英語学力の変化との関係を分析することはできなかつた。したがつて, 生従の学力を左右した直接の要因についてくわしく考察することはできなかつた. また, このような制度的変化が, 英語以外の教科の学力と, その他に与えた影響も考察する資料をもたない。 これらの不備はいろいろあるにしても, 教育制度的変革の一時点において, 学力の推移を客観的に記録した資料として残されるべきものと考えられる。