本研究は, ルール表象の抽象化に及ぼす事例情報の妨害的効果について, 表象の抽象度と課題解決との関連を通じて検討したものである。つるまきばねの測定実験を事例として「フックの法則」を学習する場面において, 2つの研究が行われた。研究1では, 学習者が形成したルール表象の抽象度および課題解決と抽象度との関連が検討された。研究2では, 抽象度の異なるルール命題を教示し, その抽象度と課題解決との関連が検討された。その結果, 以下の点が明らかになった。(1)測定実験に関する事例情報は, ルール表象の抽象度, 適用範囲に関する認識, 操作可能性を制限する方向で影響を与えた。(2)この影響は, 抽象度の高いルール命題を教示しても, 完全には解消されなかった。(3)一般にルール表象の抽象度が高ければ操作可能性は高まるが, むしろ抽象度が低い場合に促進される操作もあった。これらの結果から, 抽象的なルール表象の形成と具体的な事例情報の活用を両立させることが, ルール学習の促進にとって重要な課題となることが示唆された。