本研究では, Maehr & Midgley(1991)によって提案された動機づけ構造の各下位次元を, わが国の小学6年理科「水溶液の性質」の授業に適用した教授方略を考案した。授業実践を通して, 導入した教授方略が, 学習者の科学的概念の変化, 及び学習観・動機づけ・学習方略の変化に, どのような効果をもたらすのかを探索的に検討することを目的とした。単元前後における動機づけの質問紙調査に基づく数量的分析, 水溶液の性質の保持概念に基づく記述分析, 毎時間の授業過程における発話と行為に基づく解釈的分析の結果, 以下の3点が示唆された。1)本授業で考案した教授方略は, 水溶液の性質についての科学的な概念の獲得を促す。2)既有知識・日常経験と関連づける「課題」, 最適な選択・決定を自らが行う「権限」の教授方略の働きかけは, 学習観における「科学的手続きの重視」の上昇を導く。3)グループにおいて問題解決・意志決定を行う「グルーピング」, 自らが目標を設定し評価する「評価」の教授方略の働きかけは, メタ認知的方略における「プランニング」の上昇をもたらす。