従業員数約1,000~35,000名の業績普通ないし優良の製造販売企業4社を対象にした調査資料をもとに, 管理範囲にかかわる諸変数間の相互依存関係の基本構造の解明が試みられた。結果は, 以下のようにまとめられる。 (1) 管理範囲にかかわる媒介変数23変数51項目への反応は, 因子分析の結果, 会社や職位にかかわらず, ほぼ5因子から構成されていることが明らかにされた。 (2) 職位別の資料から抽出された因子をバリマックス回転し, 得られた因子負荷行列をターゲットとして, プロクラステス回転を行ったところ, 会社や職位にかかわらず, 両因子負荷行列は基本的には同一であることが見出された。 (3) サンプル数の最も大きい1社 (E社) の資料を用いて, 先の5因子を通じて管理範囲にかかわる媒介変数の職位間での差異を検討した。因子得点で比較したところ, 職位に特有と考えられる反応の違いが, 各因子ごとに明らかになった。 (4) 業務遂行状況の適否, 人間関係の適否などの管理範囲にかかわる基準変数および集団の大きさ (中間職位にある管理者の直属部下数) と, 管理範囲にかかわる媒介変数を構成する5因子それぞれとの関連性が, 各因子を従属変数とし, 5つの基準変数を説明変数とした重回帰分析により検討された。その結果, 各因子は基準変数と密接な関連性を有することが認められた。 最後に, われわれは管理範囲にかかわる諸変数間の相互依存関係の基本構造の解明を意図して, 4社の資料を分析したが, この資料を用いての分析を考えただけでも残された課題は多いことが指摘できる。しかしながら, 今回の分析により, 管理範囲にかかわる媒介変数が, 会社や職位にかかわらず, ほぼ共通の5因子で説明できるという点が明らかになった意義は小さくないであろう。このことは, 少なくとも今回と同種の企業については, 原則的には管理範囲にかかわる規定因を, 会社や職位にかかわらず同一のものさし, しかも5因子という少ないものさしによって測れることを保証するものといえる。 たとえば, 同一会社の各管理単位組織について, これら5因子ごとの職位間差異をプロフィールとして描けば, 管理範囲の規定因に関する各単位組織の現状の診断が可能になる。今回の分析では, われわれは分析を各単位組織ごとには行なわず, 職位による平均的プロフィールを図2のような形で描いたに過ぎなかったが, これを単位組織ごとに行うことにより, 各組織についてのきめの細かい分析と診断が可能になろう。ただし, 同様な手法を会社間の比較に用いるためには, 業種・規模・業績などさまざまに異なる企業からの多数の情報が必要となろう。