ともに意味記憶障害が合併した, 語義失語を呈した semantic dementia (SD) 例 (症例 1) とウェルニッケ失語を呈した非定型アルツハイマー病 (AD) 例 (症例 2) の症候と神経心理学的所見を比較した。両者の対照的な特徴から, “意味記憶障害を合併する流暢型進行性失語”には, 2 つのタイプが考えられ, 症例 1 のような側頭葉前方部を神経基盤とする SD を前方型とするならば, 非生物カテゴリー特異的意味記憶障害を合併した症例 2 のような非定型 AD は (側頭葉極を除く) 側頭─頭頂葉外側に神経基盤が示唆されたことから, 後方型とみなすことができた。両者ともに道具の意味記憶障害がみられたが, 検査場面において, 症例 1 では誤使用がほとんどなく, 使い方がわからない道具の使用はほぼ一貫して拒絶されたのに対して, 症例 2 ではしばしば意味性錯行為が認められた。また, 症例2 はこのような特異な病態を有するにもかかわらず, logopenic progressiveaphasia (LPA) の診断基準 (Gorno-Tempini ら 2011) を満たすことから, 本病態と LPA の鑑別には, LPA の経過と変化という新たな視点が必要であると考えられた。一方, 定型AD 群 31 名を対象に具体的対象物に関する意味障害を検討したところ, 定型 AD のそれは対象物の呼称・理解の障害と特徴的な属性に関する知識の障害から 2 元的に説明され, これまで一元的とされてきたその成因は根本的に見直される必要があると考えられた。これら変性部位の異なる意味記憶障害の特徴を比較することにより, その機能解剖学的な発現機序についても考察した。