脳損傷後には,依存性,感情コントロール低下,対人技能拙劣,固執性,引きこもり,など,社会的場面・対人場面での行動にさまざまな問題が生じてくる。これらの問題は,脳損傷に伴う身体障害や社会的困難に対する心理的反応などとして理解できる場合もあるが,脳損傷の直接の結果として理解するほうが妥当と考えられる場合もある。前頭葉は社会的行動と関連する重要な脳領域であるが,その損傷によって生じる行動障害は,アパシー,脱抑制,遂行機能障害という3 つの軸で大別することも可能である。この 3 症候群が内側前頭前皮質,眼窩前頭皮質,背外側前頭前皮質の損傷とそれぞれ特異的に関連しているとの主張もみられるが,病変と症候の対応関係はそれほど明解ではない。社会的行動障害の基盤となる情報処理の障害が何であるのかは十分には明らかにされていないが,たとえばアパシーについては,目標へと方向づけられた行動(goal-directed behavior)の量的減少として理解できるのではないかとの考えが提案されている。