右側優位の側頭葉前方部の萎縮により熟知相貌の認知障害を呈したと考えられる一例を検討した。症例は64 歳,右利きの女性。63 歳時ごろから,よく知っている人物の顔を見ても誰であるかがわからず,名前を思い出せないなどの症状が出現した。次第に日常使用している物品の名前も思い出しにくくなったため,精査目的にて当科を受診した。初診時,相貌認知の障害に対する自覚はうかがえたが,それに対する深刻味はみられなかった。神経学的には特記すべき所見はなかった。詳細な神経心理学的検討により,全般的知能や記銘力低下に比べ,語義の障害および,意味記憶としての相貌や物品の認知障害が認められた。本例は右側優位の側頭葉前方部の原発性葉性萎縮を呈しており,右側頭葉前方部に神経基盤をもつ相貌の意味記憶や他の視覚性表象を担うニューラルネットワークが,主に障害を受けたものと考えられた。