“もの忘れ外来”を受診した高齢者に対し,Auditory verbal learning test (AVLT) を施行し,疾患の違いによる記憶能力の成績を比較した。対象はアルツハイマー病 (AD) 114 名,血管性認知症 (VD) 68 名,レビー小体病 (DLB) 6 名,前頭側頭型認知症 (FTD) 25 名,Mild cognitive impairment (MCI) 49 名,および非認知症·非 MCI (CS) 46名であった。短期記憶と全即時記憶は,CS 群に比べ,MCI および認知症の各群で顕著に低下を認め,MCI と認知症群の間にも差を認めた。言語学習能力は MCI や認知症群が,CS 群に比べ,明らかに低下していた。 MCI は AD に比べて良好であった。AVLT の学習曲線は,CS 群に比べ,MCI,認知症群の順に平坦化した。逆向性干渉効果は CS 群より MCI や認知症の方が高く,MCI と AD ,AD と FTD の間にも差を認めた。再認は,CS 群と MCI の間で差を認めなかった。しかし,MCI と AD,VD,DLB の間で有意な差を認めた。これらの結果は,AD と FTD の記憶障害が異なる基盤を有する可能性を示唆するものであった。MCI では,情報処理過程のうち,符号化や貯蔵の障害のみで検索過程は保たれているが,認知症では検索過程にも問題があると思われた。